「水質汚濁に係る環境基準について (昭和46年12月環境庁告示第59号)」の改正

2022年4月1日より河川、湖沼、海域のふん便汚染の指標が「大腸菌群数」から「大腸菌」に改正されました。そこで今回は、「大腸菌群数」と「大腸菌数」の違いや環境基準改正の経緯についてお話します。

大腸菌群と大腸菌の違い

「大腸菌群」という分類は細菌分類学上の菌名ではなく衛生管理上の汚染指標で、乳糖を分解して酸とガスを生ずる菌を指します。
「大腸菌群」には、「大腸菌」の他に、ふん便汚染のない水や土壌等に分布する自然由来の細菌も含まれます。

改正の経緯

昭和46年の環境基準設定当時は、次の3つの条件に合致する「大腸菌数」がふん便汚染の指標(基準項目)として取り上げられました。

  1. 人及び動物の排泄物中に常に大量に存在する
  2. 人及び動物の排泄物以外には存在しない
  3. 水域においてある程度の生存力があること1)

しかし、当時の培養技術では「大腸菌」のみを検出する簡便な分析法が確立されていなかったため、簡便な分析法が確立されていた「大腸菌群数」が採用されました。2)
その後の培養技術の進歩により、大腸菌の簡便な測定方法が確立されたため、ふん便汚染を捉えることができるより的確な指標として「大腸菌数」に基準項目を変更することとなりました。

名前は似ているのに単位も分析方法も違う!

「大腸菌群数」と「大腸菌数」、名前は似ていますが、「水質汚濁に係る環境基準について」に採用された方法を比較すると、以下に示すように分析方法も単位も異なっています。

最後に

赤痢菌、コレラ菌、チフス菌等の水系感染症の多くは動物のふん便によってもたらされます。そのため、公衆衛生上の脅威となるこれらの病原菌を監視する必要があります。しかし各病原菌を個別に検査することが困難であるため、ふん便に大量に存在している大腸菌を指標細菌として「ふん便汚染の有無=水系感染症のリスク」として監視しています。

近年の日本では衛生状況もよくなり、水系感染症はもはやなじみのうすい過去の病気という印象がありますが、世界に目を向けると依然として脅威となっています。日本においてもこれらの脅威がまったくなくなったわけではなく、継続的なモニタリングが必要です。

私たちの健康を守る基準項目「大腸菌」について興味を持っていただければ幸いです。(執筆:山岸功)

参考文献

1)環境庁水質保全局 水質環境基準検討会報告 昭和58年8月
2)中央環境審議会水環境・土壌農薬部会生活環境項目環境基準専門委員会
   水質汚濁に係る生活環境の保全に関する環境基準の見直しについて(第2次報告案)令和3年3月