ナウシカの劇場公開をみて「もう虫は殺せない…」と思ったのは大学生の頃。春休みの季節でまだ寒かった。虫を見かけないうちは良かったが、やがて夏が来て蚊の季節になり、自分の足の甲にとまった蚊が血を吸って体が赤くなるのをじっと見ていた。なぜ追い払わなかったのかは覚えていない。そんな光景を2度見たが3度目からは耐えられずつぶした。今もできるだけ追い払うようにはしているが、体にとまった蚊はついつい殺してしまう。
そんな私にさえ嫌われてしまう可哀そうな蚊、この蚊がヒトなどの哺乳動物を感知するシステムは、二酸化炭素と体温と言われてきましたが、近年の研究でこれらに加え、「におい」が大きく影響しているらしい…と私たちにおいマニアの間では注目されています。今回はそんな蚊の話です。
人類にとって最も危険な生物「蚊」。マラリアやデング熱などの伝染病を媒介することによって、人類の歴史上、最もヒトを殺していると言われています。(ちなみに2番目にヒトを殺している生物はヒトです…)※1。この蚊ほど研究されている昆虫はいないかもしれません。
蚊が感じるにおいの世界について、いろんな面白い研究があります。
マラリア蚊、ハマダラカのにおい物質結合タンパク質の研究※2
これは2010年に発表された研究、臭気成分と蚊の嗅覚受容体にある結合タンパクについて初めて解明したものです。50以上の臭気成分を用いてスクリーニングし、12成分(1-オクテン-3-オール、オクタナール、ノナナール、リナロール、2-ウンデカノン、2-ヘプタノン、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸オクチル、酢酸ノニル、ヘキサン酸エチル)を感じる仕組みを解明しました。
ヤブカとハマダラカはヒトのにおいを好むように進化した!※3
これは2015年に発表されたものです。多くの蚊は選り好みしないそうですが、単純に二酸化炭素と体温に引き寄せられるだけでなく、ヒトのにおいを好むように進化してきた蚊がいるんですって。
ヤブカ属の蚊は、デングウイルスとジカウイルスに感染したマウスの方に感染していないマウスよりも集まる。※4
これは新しい、2022年に発表されたものです。Youtube※5もあります。日本語字幕でみると面白い!なんとウイルスが宿主の皮膚常在菌に作用して蚊が集まる化学物質を作るから蚊が集まる..というもの(;゚Д゚)。
その化学物質がアセトフェノンということまで分かっています。これは驚きです。猫と鼠とトキソプラズマの関係みたい(知らないヒトは調べて下さい。トキソプラズマという原虫が脳をコントロールしちゃうんです。)ウイルスが新たな宿主を求めて自己増殖のため蚊を呼ぶんです。すごいですね。アセトフェノンには強力な蚊の誘因効果があることもこの研究で判明しました。
ごめんなさい。長くなっちゃいました。本当はこの蚊の嗅覚を応用したバイオセンサーの話(東大の研究)のことを書きたかったのですが、くどくなるので今回はこの辺で。(執筆/亀山直人)
参考文献
※1 Bill Gates(2014). The deadliest animal in the world
※2 Wei Xu, & Anthony J.Coenel, & Walter S.Leal(2010). Odorant-Binding Proteins of the Malaria Mosquito Anopheles funestus sensu stricto
※3 Carolyn S.McBride(2016). Genes and Odors Underlying the Recent Evolution of Mosquito Preference for Humans
※4 HongZhang, & Yibin Zhu, & Ziwen Liu, & Yongmei Peng, & Wenyu Peng, & Liangqin Tong, & Jinglin Wang, & Qiyong Liu, & Penghua Wang, & Gong Cheng(2022). A volatile from the skin microbiota of flavivirus-infected hosts promotes mosquito attractiveness
※5 https://www.youtube.com/watch?v=qOSRcV9BCiA
これはYoutube。日本語字幕を付けてみてね!