線虫について
線虫は土壌や淡水・海水中など水分のある場所には必ずいる生き物です。最近ではC. elegansというモデル生物(世界中の研究者が共通して使用する生物)の嗅覚(化学走性)を利用したガン検診のCMを目にする機会もあり、線虫が身近な生き物になってきたと感じます。その一方、農業分野で線虫は厄介者として扱われますが農業界以外ではあまり知られていません。そこで今回のコラムでは農業で問題になる線虫についてお話したいと思います。
農業で問題になる線虫について
農業で問題になる植物に寄生する線虫を総称して「植物寄生性線虫」と言います。基本的には土壌中で生活をしている線虫のうち一部が植物に寄生する線虫になります。植物寄生性線虫の他に細菌やカビ、線虫を捕食して生活する線虫もいます。見分け方は植物寄生性線虫の頭部には口針(こうしん)と口針球(こうしんきゅう)という器官があり、この針を植物の根に刺して内部に侵入・寄生生活を送ります(写真1)。
メジャーな植物寄生性線虫として、ネコブセンチュウ、シストセンチュウ、ネグサレセンチュウという種類がおり、様々な作物に寄生して被害をもたらします。
植物寄生性線虫による被害
農業において線虫による被害は大きく、主要な作物生産量のうち12.3%程度が線虫の被害によって損失すると推計されています1)。線虫による実際の被害は農作物の収穫量の減少や品質の低下などが引き起こされます(写真2)。例として被害形態を挙げますと、ネコブセンチュウは根にコブが形成され、根の機能低下による収穫量の低下や収穫物の品質の低下を引き起こします。ネグサレセンチュウでは主に根菜類で被害を引き起こし、品質の低下が主な被害形態となります。また、土壌中の線虫の数が多い場合は植物の生育量を低下させることもあり、被害が顕著な場合は植物が枯れてしまうこともあります。その例としてミニトマト苗をネコブセンチュウの接種頭数を変えて生育させた実験データがあります(図1)。この実験では数頭のネコブセンチュウを接種した場合と比較して、200頭程度接種すると生育量は30%以下まで低下します。このように植物の生育に植物寄生性線虫は密接に関わっており、私たちの食料をつまみ食いしている存在でもあるのです。
最後に
日本でも線虫により作物の被害が発生しています。現在では線虫被害を抑制するための農薬開発が進んでいますが、他の害虫と比較するとまだ種類は多くありません。当社では線虫に対する農薬や農業資材の開発をサポートする試験を行っています。試験は室内の小規模な試験から実際の圃場での試験までを実施していますので、資材開発の際はお気軽にお問い合わせください。(アグリ事業開発部 伊藤大輔)
参考文献
1) Walia, R. K., & Kanwar, R. S. (2011). Nematode Problems and Their. Breeding And Protection Of Vegetables, 354.