石綿(アスベスト)の事前調査について、有資格者による調査が義務付けられたのは最近のことですが、さらに新たな調査資格及び法令が追加されます。

2026年(令和8年)1月1日以降より、石綿障害予防規則と大気汚染防止法の一部改正により、工作物に係る事前調査について資格者が行うことが義務化されます。その資格者が今回ご紹介する「工作物石綿事前調査者」であり、新設された資格区分です。

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1. 現状のアスベスト事前調査について

アスベストの事前調査ですが、法令で以下のように定められています。

石綿障害予防規則第三条第一項

事業者は、建築物、工作物又は船舶(鋼製の船舶に限る。以下同じ。)の解体又は改修(封じ込め又は囲い込みを含む。)の作業(以下「解体等の作業」という。)を行うときは、石綿による労働者の健康障害を防止するため、あらかじめ、当該建築物工作物又は船舶(それぞれ解体等の作業に係る部分に限る。以下「解体等対象建築物等」という。)について、石綿等の使用の有無を調査しなければならない

事前調査の対象は「建築物」、「工作物」、「船舶」となっています。
そして、現状の事前調査を行う者の要件についても法令で以下の様に定められています。

石綿障害予防規則第四条

事業者は、事前調査のうち、建築物及び船舶に係るものについては、前項各号に規定する場合を除き、適切に当該調査を実施するために必要な知識を有する者として厚生労働大臣が定めるものに行わせなければならない

事前調査を行なう者の要件は「建築物」と「船舶」に係る調査についてのみの記載となっており、現状では「工作物」に関して事前調査の義務はあるものの、その調査資格要件に関する記載はありません。

ちなみに、厚生労働大臣の定める「建築物」と「船舶」に対する調査資格は以下の通り

「建築物」・・・①特定建築物石綿含有建材調査者
         ②一般建築物石綿含有建材調査者
         ③一戸建等石綿含有建材調査者(※一戸建て住宅及び共同住宅の住戸の内部に限る)
         ④令和5年(2023年)9月30日以前に日本アスベスト調査診断協会に登録され、
          事前調査を行う時点においても引き続き同協会に登録されている者

  「船舶」・・・ 船舶石綿含有資材調査者

2. 2026年(令和8年)1月1日以降のアスベスト事前調査について

現状では法令に調査者要件の記載がない工作物の事前調査ですが、その部分に関して、2023年(令和5年)1月12日に交付、令和8年1月1日施行で法令改正が行われました。改正内容の説明として以下のように記載されています。

石綿障害予防規則の一部を改正する省令の施行について(基発0112第2号令和5年1月12日)

(1)事業者は、工作物に係る事前調査について、石綿等が使用されているおそれが高い工作物の解体等の作業及び塗料その他の石綿等が使用されているおそれのある材料の除去等の作業については、石綿則第 3条第3項各号に規定する場合を除き、適切に当該調査を実施するために必要な知識を有する者として厚生労働大臣が定めるものに行わせることを義務付けたこと

この“必要な知識を有する者として厚生労働大臣が定めるもの“が「工作物石綿事前調査者」になります。施行される2026年(令和8年)1月1日以降の工作物に関する事前調査には、この資格が必要になるということです。

3. 「工作物石綿事前調査者」の適用範囲について

前段にて事前調査の対象が「建築物」「工作物」「船舶」であることを述べましたが、「建築物」と「工作物」の違いが分かりにくいかと思います。今後、「建築物」か「工作物」かによって、必要となる調査資格が変わってくるわけですから、はっきりさせる必要があります。

「建築物」と「工作物」の定義については、既に石綿障害予防規則で以下のように示されております。工作物の例としていくつかの施設が挙げられていますが、エレベーターやエスカレーターなど、建物の一部ともいえる部分においても「工作物」に該当する設備であることが示されており、単純に「工作物」は「建築物」から独立した設備というわけではないということが分かります。

石綿障害予防規則の一部を改正する省令の施行について(基発0804第8号令和2年8月4日、一部改正 基発0509第4号令和4年5月9日)

(ア 事前調査の対象となる作業等(第3条第1項関係)

① 「建築物」及び「工作物」の定義

「建築物」及び「工作物」の定義については、平成17年3月18日付け基発第0318003号(以下「石綿則施行通知」という。)第3の2(1)アにおいて、「建築物又は工作物」とは、すべての建築物及び煙突、サイロ、鉄骨架構、上下水道管等の地下埋設物、化学プラント等の土地に固定されたものをいうこと。また、「建築物」には、建築物に設ける給水、排水、換気、暖房、冷房、排煙の設備等の建築設備が含まれるものであること。」としていたが、「建築物」と「工作物」の概念をより明確化するため、「建築物」及び「工作物」の定義はそれぞれ以下(ア)及び(イ)のとおりとすること。

(ア)「建築物」とは、全ての建築物をいい、建築物に設けるガス若しくは電気の供給、給水、排水、換気、暖房、冷房、排煙又は汚水処理の設備等の建築設備を含むものであること。

(イ)「工作物」とは、(ア)の建築物以外のものであって、土地、建築物又は工作物に設置されているもの又は設置されていたものの全てをいい、例えば、煙突、サイロ、鉄骨架構、上下水道管等の地下埋設物、化学プラント等、建築物内に設置されたボイラー、非常用発電設備、エレベーター、エスカレータ-等又は製造若しくは発電等に関連する反応槽、貯蔵設備、発電設備、焼却設備等及びこれらの間を接続する配管等の設備等があること。

なお、建築物内に設置されたエレベーターについては、かご等は工作物であるが、昇降路の壁面は建築物であることに留意すること。

また、具体的な事前調査対象の工作物として、石綿障害予防規則では石綿等が使用されているおそれの高い17の工作物(特定工作物)を挙げ、その工作物によって事前調査がおこなえる資格を以下表のように区分しました。11~17の特定工作物と特定工作物以外については、従来の建築物石綿含有建材調査者等で行えますが、より専門性が求められる1~10の特定工作物については、今回の法改正で新設される「工作物石綿事前調査者」のみが事前調査を行う事が出来るものとなりました。

出典:厚生労働省石綿総合情報ポータルサイト 工作物石綿事前調査者より抜粋
https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/investigator-structures/

4. 法改正に向け

事前調査の対象となる工作物は建築物内にも存在する可能性があり、「建築物」と「工作物」のどちらに該当するのかが不明瞭な対象も発生すると見込まれます。そのため、事前調査を網羅的かつ円滑に行うためには、現時点では、建築物石綿含有建材調査者と「工作物石綿事前調査者」の両方の資格を取得しておく必要があると考えています。法令の施行は約1年後となりますが、既に「工作物石綿事前調査者」の資格は取得可能です。そのため、法令の施行に向け、当社の建築物石綿含有調査者も工作物石綿事前調査者の資格取得を随時行っております。(執筆:坪井)

関係法令リンク

・厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイト
https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/

・厚生労働省 石綿障害予防規則など関係法令について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/jigyo/ryuijikou/index_00001.html