六価クロムとは

クロムの化合物のうち、酸化数が +6 の Cr(VI) を含むものの総称です。非常に強い酸化能力を持つ不安定な物質で、適した還元剤が存在する環境であれば六価クロムから三価クロムに変わる性質があります。

水域環境では酸素が欠乏した状態の所で起こることもあります。六価クロムの強い毒性はこの性質に由来するものであり、自然界には限定的にしか存在しません。

六価クロムの毒性

強い酸化作用から、六価クロムが皮膚や粘膜に付着した状態を放置すると、皮膚炎や腫瘍の原因になります。また、六価クロムに汚染された水を飲むなどした場合、その腐食作用から急性中毒として、腹痛・嘔吐・下痢などの症状を引き起こすことが知られています。

六価クロムによる環境汚染

六価クロムは金属メッキ、皮なめし、顔料などで広く用いられてきました。1973年3月、東京都江東区の化学工場跡地から大量のクロム鉱滓が発見されました。これは、六価クロムによる土壌汚染問題だけでなく、産業廃棄物の適正処理のあり方も含めた大きな社会問題になりました。

改正の経緯

2018年9月に、内閣府食品安全委員会において、六価クロムの許容一日摂取量(TDI)が 1.1 μg/kg 体重/日と評価されたことを受けて、2020年4月に水道水質基準の基準値が0.05 mg/Lから0.02 mg/Lに改正されました。
このような状況を踏まえて、水質環境基準健康項目の基準値の見直しを行うことになりました。

六価クロムの水質環境基準見直しの際に、基準値がこれまでの半分以下になることから分析方法についての検討も行われました。その結果、目標とする定量下限値(0.01 mg/L)が担保できない可能性があるなどの理由で、フレーム原子吸光法は新しい公定法からは削除されました。

最後に

六価クロムは、公共用水域に適用される基準と水道水に適用される基準とで分析方法が異なります。それは、公共用水域の測定方法が「六価クロム」を対象とした測定方法であるのに対して、水道水では「総クロム」の測定結果を「六価クロム」として評価していることから生じています。
水道水は塩素処理が行われているため、環境水中の三価クロムも六価クロムに酸化されていると考えられることや、飲料水中のクロムという観点から原子価別に測定した毒性ではなく総クロムを測定し、安全側の評価しようという考え方によるものとされています。
このように、同じ基準項目でも目的によって評価の仕方が異なるというのはとても興味深いものですね。(技術本部・杉江昌)