環境管理センターでは、化学分析や調査業務を通じて労働者が化学物質に触れる機会が少なくありません。有害物質の吸入を防ぐには呼吸用保護具(以下、マスク)の着用が必須ですが、正しく装着しなければその効果は発揮されません。環境に関わる業務を続けていくためにも、まず働く人の安全を守ることが大切です。弊社でも、その思いから以前より労働安全衛生に力を入れてきました。
今回のコラムでは、最近の取り組みのひとつであるマスクのフィットテストをご紹介します。
マスクのフィットテストとは
マスクは粉じんや有機溶剤から呼吸器を守ります。しかし、どんなにフィルター性能が優れていても、顔に合っていなかったり、誤った装着方法では十分な効果は得られません。そこで行うのがマスクのフィットテストです。
フィットテストでは、
・顔の形に合ったマスクを選定できているか
・正しく装着できているか
を個人ごとに確認します。
また、近年の法改正により次の場合には年1回のフィットテスト実施が義務化/実質義務化されました。弊社は多種類の化学物質を取り扱うため、3.が該当します。
1.屋内作業場で金属アーク溶接等作業を継続する場合
2.作業環境測定結果が第三管理区分となった場合
3.リスクアセスメント対象物(※)の使用において、リスクの低減措置としてマスクを使用している場合
※ 化学物質対策に関するQ&A (厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11237.html?utm_source=chatgpt.com
リスクアセスメント対象物:厚生労働省が指定し、危険性・有害性の評価(リスクアセスメント)が義務付けられている化学物質を指します。
マスクのフィットテストの流れ
では実際に、フィットテストはどのように行われるのでしょうか。
ここで重要なのは正しい条件でテストを行うことです。近年の測定機器は高性能で数値は必ず出ますが、測定条件等を誤れば意味がありません。
さらに、不合格のまま業務に就かせることはできません。
どこから漏れているのか
どの動作で漏れやすいのか
マスクの種類が合っているのか
装着方法に問題はあるのか
原因を突き止め、合格に導く必要があります。そのためフィットテスト実施者は労働衛生に関する知識及び経験を有する者が望ましいとされており、弊社でも講習受講者がテストを実施しています。
フィットテスト実施の効果
フィットテストを実施するメリットは大きく分けて3つあります。
- 最適なマスクを選べる
同じ性能のマスクでもサイズやメーカーによって形状が異なります。体重の増減などでもフィット感は変化します。 - 正しい装着スキルが身につく
テストは被験者自身の装着操作を含めて行われます。たとえば、眼鏡が曇るのはマスクから空気が漏れている証拠です。漏れがあれば、どんな高性能フィルターも役に立ちません。 - マスクのメンテナンス機会になる
年1回のテストを受ける意識が、消耗品パーツの交換や状態確認につながります。被験者の心持としては1回で合格をしたいものです。それに備えて準備を整えるため、自然とマスクの状態改善が進みます。
労働者の保護具への意識の変化
導入当初は「購入したマスクをテストしてほしい」という依頼が中心でした。しかし最近では「購入する前にフィットテストをしたい」と変化しています。これは大きな成果であり、労働者のマスクに対する意識の変化が表れてきた証拠です。
左からS、M、Lサイズ 上中下段でメーカー等が異なります
複数のマスクを用意して個人に合うマスクを選定できる環境を整えています。
最後に
様々な業種で作業改善と共にマスクの着用が一般化して久しいですが、今後は義務化に関わらず「マスクを着用するならフィットテストをする」のが当たり前になることを願っています。
弊社では保護具も含め化学物質管理について様々な取り組みを行っております。何かお困りの際は、ぜひ弊社までお問い合わせください。(執筆:福本)
参考
・基発0531第9号 労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000945516.pdf 閲覧日2025年9月18日)
・JIS T 8150:2021 呼吸用保護具の選択,使用及び保守管理方法 (日本産業標準調査会)