はじめに

 我が国の環境アセスメント制度は、1972年の公共事業での導入から半世紀以上経過しました。港湾法や公有水面埋立法などの個別法や行政指導、閣議決定「環境影響評価の実施について」、地方自治体の条例・要綱などの実績を積み重ね、1997年に環境影響評価法が成立し、2011年に配慮書・報告書手続の追加などが改正されています1)

 環境影響評価法では、2024年3月末時点で854件の手続を実施しており、その中でも風力発電事業は542件と全体の6割強を占めています2)。風力発電事業は脱炭素に向けた取り組みを強力に推し進めるためにも更なる導入が期待されており、国では環境アセスメント制度の最適な在り方について検討されています。

 本稿では、洋上風力発電と陸上風力発電のそれぞれについて、国による環境影響評価制度の在り方の最近(2024年11月)の検討状況について、ご紹介します。

洋上風力発電に関する環境影響評価制度の在り方の検討状況

 2024年3月に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下「再エネ海域利用法」という。)の一部を改正する法律案」が閣議決定され、第213回通常国会に提出されましたが、同年10月の衆議院解散に伴い廃案となりました3)

 法律案の基になった中央環境審議会「風力発電事業に係る環境影響評価の在り方について(一次答申)」(2024年3月)では、表1のように整理されています。再エネ海域利用法と環境影響評価法の2つの法律による環境配慮に係る制度的な重複を解消し、環境影響評価法の事業者による配慮書・方法書手続の適用除外、環境省による現地調査の実施などが特徴となっています。

 また、2024年7月より洋上風力発電におけるモニタリング等に関する検討会において、事業者向けのガイドラインを取りまとめるため、モニタリングの内容等について検討が進められています3)

表1 洋上風力発電事業の現状と課題、適正な環境配慮を確保するための新たな制度の在り方4)

現状

▶︎ 再生可能エネルギーの中でも、風力発電は太陽光発電とともに主力を担う
  位置付け。海に囲まれた我が国では、洋上風力発電の大規模導入への期待が
  高い。更なる導入促進が必要。

▶︎ 再エネ海域利用法に基づき、発電事業が実施可能な海域を海洋再生可能エネ
  ルギー発電設備整備促進区域(以下「促進区域」という。)として指定し、
  公募により事業者を選定した上で、当該事業者(以下「選定事業者」という。)
  に海域を長期占用(最長 30 年)させることを可能とする仕組みを導入。

課題

再エネ海域利用法に基づく促進区域指定と環境影響評価法に基づく環境影響評価手続は、それぞれが独立した制度となっているため、両制度が並行して適用されること等により以下の課題が生じている。

▶︎環境影響が立地場所によるところが大きいため、事業者による環境影響評価の前の国による促進区域指定の際に、より適正な環境配慮が必要

▶︎手続短縮等のため、選定事業者が決まる前に、多くの事業者が同一海域で同様な事業の手続を開始

▶︎事業の実施区域の環境配慮に係る制度的重複

適正な環境配慮を確保するための新たな制度の在り方

▶︎促進区域指定前の環境省による現地調査の実施

▶︎選定事業者による環境影響評価手続(配慮書・方法書手続の適用除外)

▶︎新たな制度の適用についての考え方

▶︎促進区域指定に係る現地調査等の実施に要した費用負担の考え方

▶︎排他的経済水域(EEZ) における適正な環境配慮の確保

▶︎環境影響に関するモニタリングの実施

 

陸上風力発電に関する環境影響評価制度の在り方の検討状況

 2023年3月にまとめられた「令和4年度再生可能エネルギーの適正な導入に向けた環境影響評価のあり方に関する検討会報告書(以下「令和4年度検討会報告書」という。)」では、現行制度の課題と制度的対応の方向性が表2のように整理され、新制度の枠組みのイメージと今後の検討事項がまとめられています。

 新制度の枠組みのイメージとして、一定の規模以上のすべての陸上風力発電事業の事業影響予測書の手続、その後の環境影響の程度に応じたアセス手続の振り分け(①著しい環境影響のおそれがあり、立地選定を再検討したうえで現行アセス制度の準備書・評価書と同等の外部手続、②著しい環境影響はないものの一定の環境影響のおそれがあり、現行アセス制度の準備書・評価書と同等の外部手続、③環境影響のおそれが大きくないことが確認され、以降の事前のアセス手続不要)などが特徴となっています。

 令和4年度検討会報告書のとりまとめ以降、追加的な関係者への意見聴取も踏まえ、2024年11月より風力発電に係る環境影響評価制度の在り方に関する小委員会において、引き続き議論が開始されています3)

表2 陸上風力発電の特殊性に係る現行制度の課題と制度的対応の必要性、現行制度の課題を踏まえた制度的対応の方向性5)

陸上風力発電の特殊性に係る現行制度の課題と制度的対応の必要性

▶︎規模による対象事業判断の見直し

▶︎地方公共団体の境界で実施されることを踏まえた国の関与の必要性

▶︎地域との適切なコミュニケーションの確保

▶︎環境影響の程度に応じた合理的な環境アセスメント手続の実施

▶︎リプレースに係る環境アセスメント期間の短縮

▶︎事業計画の進捗に合わせた柔軟な手続

▶︎事後調査結果を踏まえた適切な環境配慮の確保と指標等へのフィードバック

▶︎累積的影響を適切に評価するための情報の集約・公表

現行制度の課題を踏まえた制度的対応の方向性

▶︎規模以外の、環境影響を考慮した対象事業の範囲の設定

▶︎全国一律の環境アセスメント手続の導入

▶︎環境アセスメント手続の初期段階における地域とのコミュニケーションプロセスの導入

▶︎立地による環境影響の程度に応じた合理的な環境アセスメント手続の導入

▶︎リプレースの迅速化につながる簡易な環境アセスメント手続の導入

▶︎事業計画の進捗に合わせた柔軟な環境アセスメント手続の導入

▶︎事後調査結果を踏まえて適切な環境配慮を確保するための仕組みの導入

▶︎累積的影響を適切に評価するための仕組みの導入

おわりに

 「2050年カーボンニュートラル」の目標のもとで2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減し、さらに50%の高みを目指すこと、2050年の「自然と共生する社会」の実現に続く「2030年ネイチャーポジティブ」に向けて、環境に配慮しながら最大限の再生可能エネルギーを導入することが必要とされています4)

 当社では陸上風力発電施設を中心に、太陽光発電施設、バイオマス発電施設を含めて再生可能エネルギー施設の環境影響評価業務を数多く経験しています。今回紹介した風力発電施設に関する環境影響評価制度の在り方を今後も注視しつつ、環境影響評価業務を通じて気候変動対応と適正な環境配慮の両立に貢献したいと考えていますので、お気軽にお問い合わせください。(執筆:斉藤)

参考・引用文献

  1. 環境省「環境アセスメント制度のあらまし」2023年8月(http://assess.env.go.jp/files/1_seido/pamph_j/pamph_j.pdf
  2. 環境省「令和6年版環境・循環型社会・生物多様性白書」2024年6月公表(https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r06/pdf.html
  3. 中央環境審議会総合政策部会環境影響評価制度小委員会(第8回)・ 風力発電に係る環境影響評価制度の在り方に関する小委員会(第4回)合同会議 議事次第・配付資料(https://www.env.go.jp/council/02policy/y0212-01_00005.html
  4. 中央環境審議会「風力発電事業に係る環境影響評価の在り方について(一次答申)」(2024年3月)(https://www.env.go.jp/content/000206197.pdf
  5. 令和4年度再生可能エネルギーの適正な導入に向けた環境影響評価のあり方に関する検討会「令和4年度再生可能エネルギーの適正な導入に向けた環境影響評価のあり方に関する検討会報告書」2023年3月(http://assess.env.go.jp/files/0_db/seika/1051_01/report.pdf