捕獲後の処理の課題

近年、農作物への被害を防止するために、シカやイノシシ等の大型動物の捕獲が強化されていますが、捕獲後に全ての個体をジビエ等で利活用することは難しく、また捕獲後の処理・処分が円滑に行われずに、捕獲活動へ支障をきたしています。「鳥獣保護管理法」及びその関連指針では、生態系に影響を与えないような適切な方法であれば、捕獲個体を現場に埋設することができるとされています。
しかし、法の趣旨からすれば持ち帰ることが原則であり、不十分な埋設によって生活環境保全上の支障が生じた場合は「廃棄物処理法」の不法投棄にあたる可能性もあります。

このような問題を受け、国立環境研究所等の研究機関では捕獲個体の適正な処理方法を調査し、自治体が処理方法及び事業計画を検討する際に必要となる情報の整理を進めています。それらの成果は、「有害鳥獣の捕獲後の適正処理に関するガイドブック~自治体向け~」(以下、「鳥獣処理ガイドブック」とします)として、国立環境研究所ホームページ等において公開されています。
当社では事例調査等のコンサルティングを実施し、鳥獣処理ガイドブックの作成協力を行いました。

適正処理の基本的な考え方

捕獲個体の処理では、廃棄物処理法や悪臭防止法等の様々な法令が関係しますが、生活環境保全上の支障を生じないように適正に処理しなければならず、衛生対策や臭気対策等が求められます。
また、近年問題になっている豚熱については、畜産関係者との交差汚染リスクも含めて、徹底した管理体制を構築・維持することが重要です。

自治体における処理方法の検討と計画づくり

自治体(市町村)では、鳥獣被害防止計画をもとに捕獲事業等が行われていますが、捕獲個体の処理は地元猟友会等の捕獲者に一任されています。捕獲者の負担軽減や不適切埋設の防止のために、自治体において適切な処理方法を検討し、捕獲やジビエ利活用も含めた大きな枠組みでの計画づくりが望ましいところです。

自治体において処理方法の検討や計画づくりを対応するのは、有害鳥獣対策を担当している農林系部署です。廃棄物として自治体の既存焼却施設を活用するのであれば環境系部署との連携が必要不可欠ですし、地域の関係者との協議体制の構築も重要です。また、基礎情報として、捕獲数の季節変動や個体重量、既存施設の受け入れ条件、捕獲者が抱えている課題等を調査することが望ましく、有識者や民間事業者からの技術的な支援を受ける方法もあります。「鳥獣処理ガイドブック」では、3つのステップに分けて計画づくりの手順が整理されています。

具体的な処理方法

「鳥獣処理ガイドブック」では複数の処理方法が紹介されており、今回はコストが比較的抑えられ、また導入しやすい2つの処理方法を紹介します。

 

個体切断及び既存施設による混焼処理

自治体の焼却施設に設置されている粗大ごみ用破砕機を活用し、冷凍した個体を切断して一般廃棄物と一緒に焼却する方法です。冷凍庫の設置が必要になりますが、捕獲者が手解体する労力を削減できます。一方で、十分な冷凍庫容量が必要であるとともに、動物の死体を受け入れられない焼却施設があることにも注意が必要です。

生物処理による減容及び既存施設による混焼処理

家畜ふん尿や木質チップ等から作成した菌床に捕獲個体を投入し、微生物が有機物を分解することで減容化する方法です。減容化後は主に骨が残り、廃菌床は焼却処理等により処分します。分解は2~4週間程度かかり、1週間毎の切り返し(攪拌)作業が必要になるものの、連続投入できるため保管場所が不要です。一方で、切り返し作業においてアンモニア等の臭気が発生することに注意が必要です。

最後に

ガイドブックは2019年に発行・公表されましたが、多くの自治体から問い合わせを受けており、全国的に大きな課題であることを再認識しています。また、最近はネイチャーポジティブの取り組みが進められていますが、シカやイノシシによる農林業への被害は、金銭的被害に限らず、生態系に対しても深刻な影響を与えています。

現在、当社では新たな事例収集やヒアリング調査を行い、ガイドブック改訂版の作成協力を進めています。当社では環境問題の一つとして捕獲鳥獣を取り巻く課題についてもコンサルティングを行っております。お気軽にお問い合せください。(執筆:鈴木 隆央)

<<もっと詳しく知りたい方へ>>

・有害鳥獣の捕獲後の適正処理に関するガイドブック(国立環境研究所 資源循環領域)
 https://www-cycle.nies.go.jp/jp/report/choju.html

・鳥獣被害対策コーナー(農林水産省)
 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/