水銀とは

水銀は、常温常圧で、液体で存在する唯一の金属です。水銀は、その化学的特性を利用して、様々な工業利用や製品に使われてきました。しかし、水銀は化学形態によっては非常に毒性が高く、工場廃水に含まれた有機水銀(メチル水銀)に汚染された魚介類等を食べることによって起きた中毒性の神経系疾患は、水俣病として世界的にも有名です。この水俣病をきっかけとして水銀に関する研究は大きく進み、環境政策にも影響を与えました。
水銀は、化学形態を変えながら自然界を循環しています。国連環境計画がとりまとめた「Global Mercury Assessment 2018」によると、大気中の水銀濃度は、産業革命以降に4~5倍になったと推計されています。

図1 自然界における水銀循環の図

水銀に関する水俣条約

水銀に関する水俣条約は、水銀の産出、貿易、使用、排出、廃棄など、ライフサイクル全体にわたる各段階での対策に取り組むことで、地球的規模での水銀汚染の防止を目指すもので、2013年に熊本市と水俣市で開催された外交会議で採択されました。

条約に基づき様々な対策を取る中で、大気汚染防止法では、水銀の大気中への放出規制等の措置をするため、水銀排出事業者に対し、水銀濃度の測定を義務付けることとなりました。規制を設けて基準を設定するにあたり、その測定方法を定めることが必要となります。

当社は、この排出ガス中の水銀測定方法に係る告示制定時の周知活動(説明会)や測定方法の改正検討において、改正内容の実験的検討や現場での検証、告示の文案作成を支援するコンサルティングを行いました。

排出ガス中の水銀測定方法の制定と改正経緯

排出ガス中の水銀の形態としては、ガス中に気体として存在する「ガス状水銀」と、ガス中のダストに付着する等して含まれている「粒子状水銀」があります。大気汚染防止法では、これらを合わせた「全水銀」を規制対象としています。

規制開始を目前とした平成28年当時、日本には粒子状水銀の測定方法について規定した公定法がなかったため、ばいじんの測定方法を参考とする試料採取方法が検討され、「排出ガス中の水銀の測定方法を定める告示(平成28年環境省告示第94号)」では、ガス状水銀と粒子状水銀を別々に試料採取する「個別採取方法」が採用されました。
しかし、全水銀はガス状水銀と粒子状水銀を合わせたものであるため、一括で採取する方法が望ましいことから、海外では公定法とされていた一括採取が可能な「メインストリームサンプリング」と「サイドストリームサンプリング」の2方法が検討されることになりました。

ガス状水銀と粒子状水銀を一括で試料採取する方法
-「メインストリームサンプリング」と「サイドストリームサンプリング」

「メインストリームサンプリング」は、1つのラインの前段部分で粒子状水銀を、後段でガス状水銀を試料採取するシンプルな構成になっています。1つのラインで全水銀を試料採取できるメリットがありますが、試料採取量の多い粒子状水銀に合わせて1,000L以上サンプリングするため、吸収液捕集するガス状水銀のサンプリングとしては、非常に通気量が多くなるという問題があります。このため、メインストリームサンプリングの過マンガン酸カリウム濃度は高く、粘性もあるため、扱いが難しくなります。

図2 メインストリームサンプリングの構成例

いっぽう、「サイドストリームサンプリング」は、前段で粒子状水銀を採取した後、ガス状水銀の捕集に適した流量となるようにラインを分岐するため、吸収液の扱いは従来の個別採取方法と同じになります。試薬類は個別採取方法と同じものを使用できますが、ラインを分岐させる煩雑さが伴います。

図3 サイドストリームサンプリングの構成例

いずれの方法にもメリット、デメリットがあるため、従来の個別採取方法を含め、状況に合わせた試料採取方法を選択することが重要です。

最後に

調査・分析方法の策定や改善検討には、現場での調査・分析や実験室での検証が欠かせません。当社では、環境に関する様々な課題について、調査・分析技術のノウハウを活かして、実態把握調査からラボ試験、政策立案支援までの一貫したコンサルティングを行っておりますので、お気軽にお問い合せください。(執筆:仲地 愛子)

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