はじめに
私が所属する「におい・かおりLab」は、その部署名からもわかる通り、“におい”や“かおり”を専門に扱っているラボになります。
なぜ漢字を使わずひらがな表記なのかについては、「においの不思議な世界」( https://www.kankyo-kanri.co.jp/eccblog/column/)で解説していますので、ぜひご覧ください。
悪臭防止法とは
におい・かおりLabの業務の中で密接に関連する法律に悪臭防止法があります。
悪臭は、1967年に制定された7大公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、振動、騒音、地盤沈下、悪臭)の1つですが、他の公害に比べると生命や健康に危害を及ぼす可能性が低いことや臭気物質の測定方法が確立されていないことなどの理由により、当時は具体的な規制基準は設定されませんでした。
その後、住民の日常生活に身近な公害として悪臭問題が取り上げられるようになったことを受け、1971年に悪臭について規制する法律として「悪臭防止法」が制定されました。
悪臭防止法には、特定悪臭物質として物質濃度で規制する濃度規制と、ヒトの嗅覚を用いた測定法による指数規制の2種類があり、現在、特定悪臭物質としては表1の22物質が濃度規制の対象とされています。今回は、その中のアルデヒド類についてご紹介したいと思います。
表1 特定悪臭物質の種類と主な発生源
アルデヒドとは
アルデヒドは有機化合物の一種で、炭素と酸素が二重結合で結ばれたカルボニル基(C=O)を含んでおり、このカルボニル基の一方には水素原子が結合しています。一般的には任意の基(-R)から構成されるため、『R-CHO』で表されます。
一般的なアルデヒドの一例として、ホルムアルデヒドがあります。ホルムアルデヒドはHCHOという化学式で表され、消毒剤や合成樹脂の原料として使用されるほか、家具や建材に使用される接着剤にも含まれており、シックハウス症候群の原因物質の一つでもあります。また、アルデヒドは天然に存在する有機化合物でもあり、独特の「かおり」を持つものもあるため、香料として使用されることもあります。
このように、アルデヒドは有機合成化学、医薬品業界など様々な分野で重要な役割を果たしています。
悪臭防止法にアルデヒド類が追加された経緯
1971年の悪臭防止法の制定当初は規制対象物質にアルデヒド類はありませんでした。
その後の日本では、高度成長期に工業化と都市化が急激に進んだことで、悪臭に関する苦情が増加しました。工場からの排出ガスや野焼きによる悪臭にはアルデヒド類が含まれており、1976年になり、ようやくアセトアルデヒドが特定悪臭物質として指定されました。その後、分析技術の進歩もあり1993年にプロピオンアルデヒド等5物質のアルデヒド類が追加され、現在の6種類となりました。
分析方法について
悪臭防止法では次の3種類が採用されています。
方法3.のHPLC法は2018年に新たに追加された分析方法であり、当社ではこの高速液体クロマトグラフ(HPLC)法を採用しています。
DNPH誘導体化について
DNPHカートリッジには、2,4-ジニトロフェニルヒドラジンをリン酸酸性でシリカゲルに担持させたものが入っており、アルデヒドと反応しDNPH誘導体が生成します(図1)
この誘導体化は、様々な分析法において採用されており、アルデヒド類の分析では機器分析で定量する際の分離の改善、熱安定性の向上、検出感度の向上などのメリットがあります。
全体的な操作手順(測定方法)
アルデヒド類の分析操作を簡単にご紹介します。
1:採取
バッグに採取した試料ガスを、速やかにポンプを使用してDNPHカートリッジに捕集します。
2:溶出
カートリッジ中に生成した、アルデヒド-DNPH誘導体をアセトニトリルで溶出させます。
3:測定
高速液体クロマトグラフ(HPLC)で定量します。
最後に
悪臭防止法では、市民の責務として、悪臭の防止に努めるとともに、生活環境の保全に関する施策に協力しなければならないとしています。悪臭は、日常生活の中でも発生することがありますので、お互いを思いやって快適な生活環境の保全に努めましょう。
(執筆:渡邊 典子)
【もっと詳しく知りたい方は】
・悪臭防止法(昭和46年法律第91号)
・環境庁告示9号 特定悪臭物質の測定の方法