従来から開発予定地内や近隣でオオタカ等の希少猛禽類が営巣した場合、土地利用の制約や繁殖期を避けた工事の実施などの課題が生じることがあります。
本事例では、オオタカの営巣中心域内において、道路の設置などの土地改変が計画されていたため、馴化措置の実施により、繁殖期においても営巣中心域内で工事を行い、円滑な工事の進行に寄与することができました。
本コラムでは、国内における実施事例がまだ少なく、先進的な保全対策として“馴化措置”を主軸とした環境保全措置の内容について、ご紹介します。
開発事業における猛禽類(オオタカ等)営巣に伴う事業上のリスク及び課題
課題① 営巣地保護に伴う土地利用の制約
オオタカの保護の観点から、営巣中心域と考えられる営巣木を中心とする約400mの範囲については、「住宅、工場、鉄塔等の建造物、道路の建設、森林の開発は避ける必要がある※」とされています。
課題② 営巣期における営巣中心域内の工事の抑制
オオタカの営巣期となる2~7月は、「営巣期(2~7月)における人の立入りについては、オオタカの生息に支障をきたすおそれがある。※」とされています。〇※猛禽類保護の進め方(改訂版)― 特にイヌワシ、クマタカ、オオタカについて (平成24年12月環境省自然環境局野生生物課)https://www.env.go.jp/nature/kisho/guideline/moukin.html
本事例における保全対策の検討
工事中におけるオオタカの繁殖に対する保全対策としては、繁殖期の営巣中心域内での工事の抑制の他、突発音等の騒音防止や重機や工事作業者が巣から可視されないようにすることなどがあげられます。
本事例では、これらの対策に加え、工事をより効率的に進める観点から、有識者の意見を踏まえながら図2に示す保全対策を実施しました。
・現地定点調査及び映像監視に基づく、繁殖ステージに応じた工事範囲の設定等の施工計画の立案
・現地定点調査及び映像監視に基づく、段階的工事時間の延長等の馴化措置の実施
・フクロウの巣箱設置木(営巣適地)の選定調査に基づく、繁殖場所の整備(オオタカ巣への飛来防止を図るための巣箱の設置)
本事例における馴化措置の詳細は次の章からご紹介します。
本事例で用いた馴化措置の方法
馴化とは、一般的に工事に伴うインパクトを段階的に高め、猛禽類の工事に対する警戒心を低減(馴れを促す)していく手法のことを言います。本事例で用いた馴化措置の具体的な方法を図3に示します。
ここからは、図3に示した馴化措置の内、①②の手順についてご紹介いたします。(1)馴化措置の実施時期
有識者の意見を踏まえ、以下の3点をオオタカの重要な繁殖ステージとして設定し、これらのステージを迎える前には、工事を一時中断することでオオタカの工事に対する警戒心を低減しました。
・雄が初めて巣へ飛来する時
・雌が巣を選ぶ時
・産卵の初期
工事を再開する際には、①重機等の段階的拡大、②機械稼働時間の段階的延長による馴化措置を実施しました。(2)馴化措置中の監視体制
馴化措置中は図4に示すとおり、現地調査とカメラ映像でオオタカの異常行動の有無を監視し、異常行動の内容に応じた対応を予め決めておき、工事の継続や中断を判断しました。
まとめ
本事例においては、工事期間を通じてオオタカの繁殖が確認され、オオタカの保全及び円滑な工事進捗に寄与することができました。
大切なポイントとして、事業実施地域の地形や植生などの特性を捉え、その環境に適した保全対策を検討するとともに、オオタカの生態や広域的な視点においても事業区域と周辺地域との連続性などを十分に考慮することが必要です。
弊社では、今回ご紹介した猛禽類以外にも動植物調査のみならず、地域環境やそこに生息生育する動植物の保全を図りつつ、事業実施を円滑に推進する環境コンサルタントとして皆様の事業を総合的にサポート致します。(執筆:伊倉)