12月掲載の「アスベストについて」から引き続き、今回はアスベストの分析編です。アスベストの分析は、顕微鏡を用いて人の目で判断しており、現在主流な方法としてJIS A 1481-1という方法があります。JIS A 1481-1は建材製品中のアスベストの有無を調べる方法です。実際にどのようにアスベストを分析しているのかをご紹介します。
分析方法-アスベストを”同定する”
“同定”とは、そのものの特徴を見比べて、比べているものが同じであると判定することを言います。
例で言うと、公園で蝶を見つけたとします。その蝶の柄や触覚など、特徴を図鑑などで見比べて、その蝶の種類を特定する。これが“同定する”ということです。
アスベストの分析も同じです。顕微鏡で見える繊維状の物質に対して、光学特性(光の屈折や干渉)を見比べ、その物質がアスベストであると判断します。
同定方法
具体的な同定方法についてもご紹介します。同定には、主に鉱物観察に使用される偏光・分散顕微鏡という機器を使用します。この顕微鏡はステージ上の対象物に下から光をあてて透過させ、観察する顕微鏡となっており、試料を乗せるステージが回転するのも特徴です。顕微鏡の仕組みや設定条件は専門的な内容となるのでここでは割愛します。
『クリソタイル(アスベスト)』と繊維状物質である『セルロース(有機繊維)』とを比べてみましょう。
セルロースは有機物として有名な繊維で、アスベストと違い有害物質ではありません。今回は、ティッシュから採取し、顕微鏡で見ていきます。
- 形状の確認
形状から見ていきましょう。クリソタイルの形状は『波状』となっています。そして、非常に細い繊維のため、写真のように束になって存在していることがほとんどです。
どちらも形状は波状ですが、セルロースはリボンのように平たい繊維であり、クリソタイルと比べると繊維幅が広いことがわかります。
- 伸長の符号
聞きなれない言葉だと思いますが、簡単に言うと繊維の向きによって青色なのか黄色なのかを確認します。光の波長を上げる特殊な観察方法で色を見て判断を行います。クリソタイルは、左上がりで黄色、右上がりで青色を指します。これを「正」と呼び、逆の色を指すものを「負」と表現します。(左上がり青色、右上がり黄色)この特徴については、クリソタイルもセルロースも同じ「正」となっています。
- 消光角
これは、画像上でいう縦としたときに繊維が消えることを見ていきます。クリソタイルはまっすぐ縦となった部分が綺麗に消えるのに対して、セルロースは完全には消えていないことがわかります。
- 分散色
分散色は屈折率の決まった浸液(油)を使用することでその鉱物や物質の屈折率を色で見る観察方法です。クリソタイルの色は繊維の向きによって、(屈折率1.550の浸液下で)青色~赤紫色に変わります。セルロースは、薄青色~薄黄色に変わっています。
最後に
このように顕微鏡で見える繊維に対して特徴を確認し、その繊維がアスベストかどうかを判断していくのがアスベスト分析となっています。アスベスト分析は、顕微鏡以外でも測定機器により含有の可能性を調べることはできますが、最終的には人が目で見て判断する必要があります。その部分を補うために、複数の分析者によるチェックなどが必要不可欠です。現在では、法改正に伴い、分析者も資格が必要となっていますので、そういった資格制度を利用し、精度・技術力を高めていくことも重要だと考えています。(執筆:結城)