においを数値化する方法には、におい物質自体の濃度を分析装置で測定する方法とヒトの嗅覚を使ってにおいの感じ方を測定する方法、いわゆる嗅覚測定法があります。ここでは、嗅覚測定法のうち、においの広幡性(ひろがりやすさ)に着目した臭気指数の測定についてご紹介したいと思います。
パネル選定
パネルとは、臭気指数測定において嗅覚を用いてにおいの有無を判定するスタッフのことです。特に鋭敏な嗅覚を持っているわけではなく、一般的な嗅覚を有していることが必要となります。パネルになるためには嗅覚検査に合格する必要があります。
・嗅覚検査
5種の基準臭について検査を行います。5本のにおい紙のうち、においのある2本を選びだす方法です。下表に示した5物質すべて正解することで合格となります。
当社では、パネルとして多人数を登録し、測定を実施する日時に合わせて必要に応じた人数を招集しています。においは時間の経過とともに減衰や変質の恐れがあるため、採取の当日又は遅くとも翌日までの測定が必要です。天候や施設稼働状況、急な苦情対応等による予定変更もあるため、試料の搬入状況に合わせたパネルの人員調整が必要となります。
臭気指数とは
臭気指数の説明として前提となる臭気濃度について解説します。
臭気濃度とは、「試料を無臭の空気又は水で希釈した時ににおいを感知できなくなった時の希釈倍数」です。臭気指数は、”ヒトの感覚量が刺激量の対数に対応している”という特徴に合わせて、臭気濃度を次式のように変換した値です。
臭気指数=10×log10(臭気濃度)
臭気指数は悪臭防止法に採用され、3つの規制基準が設定されており、それぞれに測定方法が定められております。
1号基準(敷地境界線上):環境試料の方法
2号基準(気体排出口) :排出口試料の方法
3号基準(排出水) :排出水試料の方法
3つの測定方法のうちの排出口試料の方法について説明します。
排出口試料の方法
排出口試料の臭気指数測定には「三点比較式臭袋法」が用いられます。
においを判定するパネルは6名以上で行うこととなっており、当社では、常時6名で実施しております。
パネル1名に対して、No.1、 No.2 、 No.3 の3つのにおい袋に無臭空気を充填したものを用意し、任意の番号のにおい袋1つに所定の希釈倍数になるように試料ガスを注入します。すなわち、付臭におい袋1つと無臭におい袋2つの計3つを1組としてパネルに提示します。パネルはにおいを嗅ぎ、においがあると思う袋の番号を回答用紙に記入します。正解であればその希釈倍数のにおいは感知できていると判断します。
においの有無を回答させるのではなく、3つの袋のうちから他の2とは異なると感じる1つの袋を選ばせて正誤により判断するという方法で行うため、再現性・客観性に優れています。
・希釈倍数の設定と提示順
当初希釈倍数は、においの有無の判定が十分に可能な程度に濃く、嗅覚疲労が生じない濃度になるように設定します。また、3倍系列の下降法(約3倍ずつ濃度を下げていく方法)で行うことが定められていますので、当初希釈倍数もこの系列に従って設定します。例えば、当初希釈倍数を30倍と設定し、次の希釈倍数は100倍、300倍、1000倍・・・の順で行うということになります。各希釈倍数において三点比較式臭袋法を6名のパネルに対して行い、6名のうち5名、もしくは全員がにおいを識別できなくなるまで行います。
・結果の算出
集計結果の例を示します。
まず、各パネルについて個人閾値(常用対数表示)を計算します。回答が正解である最大の希釈倍数の対数値と回答が不正解である最小の希釈倍数の対数値の平均値が個人閾値となります。
パネルの個人閾値の最大値と最小値をそれぞれ1つずつ除き、平均した個人閾値の10倍が臭気指数となります。臭気指数は四捨五入により整数で表示します。
最後に
様々な特徴を有するにおいを広幡性尺度の臭気指数だけで全て評価することは難しく、においの強さや嗜好性、感じ方といった非常に主観的な性質、差異を可能な限り客観性を持たせて、数値化もしくは評価して欲しいというニーズが多く寄せられています。複数の嗅覚測定法や機器分析を組み合わせて、様々な評価尺度の特性を十分に理解し、数値化の目的に合った測定を行うことが重要です。(執筆:清水優子)