2025年8月2日~10日にアメリカ ペンシルバニア州 ピッツバーグにて開催されたASTM(米国試験材料国際協会)主催のRook Conference(https://www.astm.org/news/press-releases/d22-rook-conference-2024)に参加させて頂きました。
Rook Conferenceは、3年に1回開催されるアスベスト課題を検討するための学会で、活発で自由な議論を行うため、一切の録音、発表中の画像撮影が禁止されています。
※ASTM(米国試験材料国際協会)とは、規格の開発と提供において、世界最大・民間・非営利の国際標準化・規格設定機関です。現在、12,500を超えるASTM規格が世界中で使用され、製品の品質向上、健康と安全性の強化、市場参入と貿易の強化、消費者の信頼醸成に役立っています。国際規格開発におけるASTMのリーダーシップは、140か国を代表する3万人を超える世界トップクラスの技術専門家やビジネスプロフェッショナルの会員たちによる貢献によって支えられています。ASTMの会員は、世界中の産業や政府を支援する試験方法、仕様、分類、ガイド、及び実務を作成しています。
【参加者と発表演題数】
参加者は約100人で、日本人は筆者1名だけでした。発表は、パネルディスカッションが2件、口頭発表57件、ポスター発表12件でした。

【ホットトピック】
欧州でのアスベストの職業性ばく露限界値の変更

Rook Conferenceでは、アスベストの職業性ばく露限界値の変更が大きな議題となっていました。現在、米国におけるアスベストの職業性ばく露の値は0.1本/cm3(OSHA PEL, NIOSH REL, ACGIH TLV)です。欧州の値も例外を除いて0.1本/cm3です。例外としては、フランス0.01本/cm3、オランダ0.01本/cm3、デンマーク0.003本/cm3、ドイツ0.1本/cm3ですが、許容できる発がんリスク値としては0.01本/cm3です。

2023年に採択された欧州のDirective (EU) 2023/2668によって、アスベストの職業性ばく露限界値は、すべてのEU加盟国は2025年12月21日までに0.01本/cm3を国内法に反映し施行(位相差顕微鏡も使用可)、2029年12月21日までには0.002本/cm3を国内法に反映し施行(透過型電子顕微鏡か走査型電子顕微鏡)となりました。

より厳しい職業性ばく露限界値に対応するためには、アスベストのサンプリング流量、サンプリング時間の増加、顕微鏡での計数視野数の増加が必要です。そのため、今後アスベスト測定の価格は数倍に上がる可能性があります。また、分析者の負担についても意見があり、その負担軽減の手段として、アスベストの人工知能(AI)を用いた自動計測には注目が集まっています。

筆者は、本セッションにて、AIを用いたアスベストの自動顕微鏡分析について発表しました。欧州での大きな規制強化の前のタイミングであったこともあり、AIの分析精度や、AIにはどのようなミスジャッジがあるのか、繊維状物質のサイズ測定、分析速度等について多くの質問を頂きました。また、ASTMでは現在、AIを用いた顕微鏡法分析のためのドラフトを検討されており、検討委員にも入るように要望頂きました。
Rook Conferencでは、世界的な視点でのアスベスト課題について議論がされ、また日本ではまだ問題にはまだなっていない、まだ認識されていないアスベスト・リスクについての発表もありました。これらの情報を、今後、自分の研究、社内や社外での活動に役立てていきたいと思います。

また、月~金曜日まで5日間の学会でしたが、毎朝、まとめ役をされているフランクさんが「相手への尊敬を持って、ポジティブにコメント、議論をしましょう」と繰り返し言われ、ミニゲームのような交流イベントを行い、会場の雰囲気を柔らかくしてから学会発表を始められていた事に大変感銘を受けました。アスベストという複合的な課題を議論するため、色々な立ち位置の方が参加される学会でしたが、この気配り、会場の雰囲気づくりのお陰で、学会は全体を通して暖かい交流をベースに、議論が出来ました。学会運営についても、大きな学びが得られた学会参加でした。

(基盤整備・研究開発室 技術部長 飯田裕貴子)