「左目はテレスコープ、右腕は銃を曲げコンクリートを砕くアトミックパワー、そして時速100キロで突っ走る」。子どもの頃夢中になって観てた米国産TVドラマ「600万ドルの男」(第1シーズンの邦題は「サイボーグ大作戦」)のオープニング。このスピンオフドラマの「バイオニックジェミー」も大好きだったなぁ。ジェミーも右腕と両足、そして右耳がサイボーグでした。どちらも1970年代のドラマです。

鼻は?今から思うとサイボーグ鼻を駆使して悪の組織を壊滅させる主人公も誕生させてほしかった!犬と被るからドラマにしにくい?でももしかすると当時からヒトより優れた視覚や聴覚以上に嗅覚を造るのが難しいということが分かっていたのかもしれません。今回はそんな人造嗅覚の話です。

嗅覚の複雑さを語る時、私は良く「視覚は400nm~800nmの波長を、聴覚は20Hz~20000Hzの振動を電気信号に変えて脳に伝える物理的なセンサーなのに対し、嗅覚は数多くある性質の異なる化学物質が極低濃度レベル存在することを脳に伝える化学的なセンサーです。」みたいなことを言います。五感の一つと言ってしまうとそれまでですが、実はすごいんです。

においセンサーと言えるものは現在でも加熱された金属酸化物上でガス上の有機化合物を酸化させて電位差の変化を測定するという初期のガスクロの検出器のような原理のものが比較的空気中の水分の影響が小さく実用的です。気体分子を選定して付着させる感応膜を塗布した様々な素子(振動や応力や圧力)の変化を電気信号に変換させるタイプは湿度が制御された実験室でなら素晴らしい成果を上げていますが、湿度や気流が変化すると何を測っているのか分からなくなります。持ち歩きには向きません。ppbレベルの成分検出に%オーダーで存在する空気中の水分が影響するのは当然です。

で、私が魅かれたのがこれ↓ちょっと前の記事ですが、蚊の嗅覚受容体を組み込んだセンサーです。
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/3457/

嗅覚受容体なのでおそらくセンサーの寿命が短く実用的とは言えないでしょう。ではなぜ私がこの記事に注目したかというと、センサーが人工細胞膜なので液滴の中にあり、この液滴中の人工細胞膜とにおい分子を含む空気を接触させる工夫をしているからです。これなら空気中の水分の影響を受けません!

バイオセンサーでなくても、最初からセンサーを水に浸けちゃったり、そこまでしなくても鼻腔の中のように相対湿度100%付近で使用できるように工夫できればきっと良い装置ができるはず。ヒトの鼻の中に組み込んじゃうのが良いかな。犬並みのサイボーグ鼻が欲しい!(執筆/亀山直人)